今回、脳科学者の中野信子さんが書かれた「脳の闇」を読んで、「この方はすごく苦しんで生きてこられたんだな」と思った。
なんとか状況を良くしようと努力され、脳を研究されて、自分を生かすために頑張って来られたのだと。

人は時に強く「死にたい」と思うことがある。
しかしどうして自分自身を苦しめるのか、どうして死にたくなるのか。
どうやらそれはすべて自分の生を継続させるために必要な脳の設計であった。

現代の不安という悩みについて

私たちの脳は、狩猟民族の時とさほど変わっていないという。
不安感情がネガティブで不快なのは、その方がリスクの検出感度が高くなるから。
しかし現代では命を脅かすリスク(天敵)というものは無い。
大きな危険が無いからこそ、検出感度を上げて自分の存在意義や内面に向けて発動してしまう。
そのことによって不必要にネガティブな状況を構築してしまい、満たされず、孤独感を強く感じ、思考が自殺へと向かう。

このことについて中野先生は、不安のアンテナを少し鈍らせる。あえての思考停止。不安と戦わず、目をそらしておくことも大事、と言っている。
また、忘れっぽいことを気にしている方も多くいると思うが、「記憶を全て思い出せないこと」は人間にとって大切である。
確かにあらゆる細かいことを全て覚えているとしたら、それこそ立ちいかなくなってしまう。

うつについて

また、うつになる事にも意味がある。
ある実験で、うつの人は意思決定タスクで多くの選択肢を検討し、その成績が良かった。
うつでない人は、考えを怠る傾向があり、そのタスクを適当に済ませていた。
つまり、うつなどの気分障害は諸問題を効果的に分析し、対処可能にするために脳に備え付けられた仕組みの一つなのかもしれない、という見解を示した。
私たちの現在の繁栄は、ネガティブな抑うつ反芻によってもたらされたのかもしれない、と。

私はこの本を読んで、とても勇気をもらった。
解釈によっては、「死にたい」は「生きたい」なんだ。
死と生は真逆の方向に向いているようで、そうではなくて、生の先に死があるのだ。
つまり、死からは逃れられない。
遅かれ早かれどうせいつかは死ぬんだから。
この事実をネガティブでもポジティブでもなく、ただ真正面から受け止めたい。